躍動感がより硬質

先日行われた全米選手権、ネイサン・チェン選手の演技をリピートしている。私がそうするときの理由は、いつもいたって単純。観ていて気持ちの良い演技だから。斬新な衣装変更は全く予想していなかったので、さすがにちょっと驚かされた。まるで、王道のシンプルな苺のショートケーキから、前衛的なザッハトルテに変わったかのような変貌營養補充品。この、ぜんぜん全く胸にキュンとこない衣装(個人的感想です)で、オリンピックの晴れ舞台にも出場する覚悟なのかと、最初は淡い落胆さえ覚えたのだけど、幾度かリピしているうちに、あらこれはこれで良いのかも、と思うようになった。

スリムな黒のボディラインで身体の輪郭がシャープに映え、ひとつひとつの細かな動きが良く見える。髪と衣装のふわふわとした印象がそぎ落とされ、躍動感がより硬質なイメージで伝わってくる。男前度が増した、というのかな。とはいえ、さすがにFSのあの曲にメタルカラーの後ろファスナーは、ちょっと違和感。けれど、それも慣れてしまえるかも知れない。


彼は、4Lzより4Fの方が自信を持って跳べる?のだろうか。冒頭のコンビネーションは、今までよりかなり余裕を持って跳んだのかなという印象を受けた。特にネメシスは、ジャンプ前の上半身の動きが減る時間が少なくなり、落ち着いて音楽表現していたのかな、と。私は、少々荒っぽさを感じるロステレの演技が、迸るような感情の放出を感じられて好きなのですけどね。FSは、曲調がなかなか捉えどころがないというか、SPのような伝わり易いカラーが無いので、どう眺めてみてもジャンプに特化して見える。けれど、迷いを断ち切るかのように、次々に颯爽とジャンプを決めていく姿は、やっぱり清々しく格好良かった。


衣装が変わった影響なのか、あらためて、彼のスピンが大変美技であるという支付寶 轉帳ことにも気付く。安定した回転軸、回転の速さ、特にポジションの変わり目の滑らかさは、とても美しいと思う。力強く伸びのあるスケートではないけれど、人よりずっと軽い靴を履いているかのようなふんわりとした軽やかな滑り。素人の目しか持たない私には、これほど体幹の素晴らしい選手が、なぜアクセルジャンプをあれほど苦手とするのか、よくわからない。わからないけれど、ひとつくらい自分の思い通りにならないことがあっても、それをプラスに思考転換できるならいいじゃない、と思う。男子トップ選手にとって決して楽観視できない弱点であることは分かるけれども。そう、私個人的には、男子ジャンプの中でトリプルアクセルが一番美味しく見応えのある技だと思っているので…要するに大好物なので、彼の加点付きまくりの美麗3Aをいつかきっと見てみたい、という願いはいつも胸に秘めている。けれど、少なくとも、滑り終えた彼の表情には、憂いや焦りは感じなかった。はにかんだ笑顔は、若々しい自信に満ちていた。素直な歓喜が溢れ出ているように見えた。


オリンピック代表に選ばれた後のコメントが、また好ましい。オリンピックに出場するため膠原自生、人生の全てをかけて目指してきた。だから準備は出来ている。そう胸を張って堂々と言える男気が、胸がすくほどに格好良い。私にとっては、いま、他国選手だとかを別にして、おのずと応援したくなる選手の一人である。

良く、試合を楽しむとか楽しんで演技をするとか選手や関係者が口にするけれど、彼の晴れ晴れしい笑顔を観ながら、あぁ、こういうことなのかも知れないなと、漠然と考えてみた。これまで地道に積み上げてきた努力が実り、オリンピック代表という輝かしい権利を手にした今を、全身で味わい尽くすこと。心から喜ぶこと。それが今を楽しむということなのかな、と。


私には、彼の頭上に目に見えない王冠があるように思えた。オリンピックや世界選手権のメダルといったような、名称や形のあるものではない、もっと抽象的且つ象徴的なもの。いわば、己が己自身を掌握した王である証し。この優勝は間違いなく、大舞台に向かう自信へと繋がって、彼に大きな成果を引き寄せるのではないだろうか。


とはいえ、私は断然、ふわふわ前髪推奨派、なんですけれどね!

あと、いい加減に、SP冒頭の全てを明らかにしてください、カメラさん。オリンピックでもこれだったらどうしようって…気になって眠れないじゃないの、もう。