後ろの車が遠慮
「なあ、」と髙橋慎二は言った。
「はい」
車は五叉路の手前で停止した。守くんは首を曲げ、髙橋慎二の横顔を見た。しばらく見つめていたけれど月租酒店、つづきが出てこないので「どうかしましたか?」と言った。髙橋慎二はゆっくりと顔を向け、守くんをしっかり見た。
「サイズは後で直せるから気にしなくてもいいんだ」
「はあ。ま、そうですよね」
「それに、だいたいならわかるだろ?」
「ええ、そうですけど。慎さんは指輪にした方がいいって思うんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど、」
信号は変わっていたようだ。後ろの車が遠慮がちにクラクションを鳴らしてきた。守くんは車を発進させた大阪新樓盤。しばらく二人は黙った。ラジオからはビング・クロスビーが歌う『ホワイトクリスマス』が流れはじめた。髙橋慎二はいろいろと考えてみたものの、こう言った。
「実は、俺は指輪をひとつ持ってるんだ」
「はい?」
車はすこし蛇行した。二人の身体は揺れ、ダッシュボードにあった資料は下へと落ちた。
「たぶんだけど、妙子ちゃんに合いそうなサイズだと思う」
「慎さんが指輪を? それって、誰かの形見の品ってわけじゃないですよね?」
「まさか。新しいものだよ」
そう言って、髙橋慎二はフロントガラスにぼんやりと映りこむ自分を見つめた個人報税。守くんの姿も滲んだように浮かんでいた。
「俺が指輪を持ってたら変か?」
「いえ、変とまでは思いませんけど。で、その指輪がなんなんです?」
「今の俺には不要なものなんだ。だから、もし守くんが必要ならそれをあげられると思ってな」
「ああ、」と守くんは語尾を伸ばして言った。
「なるほど、そういうことですか」
「一応、若い店員に訊いて買ったものだから、妙子ちゃんに渡してもおかしくない物だとは思うよ」
「いくらです?」
「まあまあはした物だけど、金ならいいよ。もしその指輪でいいってなら、俺から守くんへのプレゼントってことにしよう。ま、明日持ってくるよ。見てから決めればいい」