顔を見つめていた

駅前で待ちあわせた二人は街路樹のイチョウが葉を落としている道をゆっくり歩いた。晴れてはいたけれど吹きわたる風は冷たく、それがあたるたびに周は顔をしかめさせた。まるで中学生の頃と一緒だ――と強士は思った。図書館で美以子が席を離れたときなんかもこうだった。互いに表情を硬くさせ、腹を探りあっていた。

「どうかしたのか?」
「は?」
「えらく深刻そうな顔してるよ痔瘡手術。昔からたまにしてた顔つきだ」
「そうか?」
強士はどう言おうか考えていた。周はその顔をちらと見た。あの真顔だ――と思った。なにを考えてるかわからない真顔。
「家でなにかあったのか?」
「なんでそんなこと訊くんだ?」
「これも昔からそうだったろ。周は家でなにかあると深刻そうな顔になるんだ。美以子にもそういうとこがあったな。美以子はぼうっとしてる時間が長くなる」
周は笑った。しかし、すぐに首を弱く振った。
「強士はいろんなことを知ってるよな。口に出さなくたってわかっちゃうんだ。だけど、そういうことじゃない。もう家なんて関係無いからな」

二人は大きなホールに着いた。周は時計を見た。はじまるまでまだ時間はある如何成立公司
「なあ、強士」
「あ?」
周はあのことを言うべきか迷った。言ったら強士がどのような表情をするか知りたくも思っていた。しかし、ふっと笑った。この真顔からなにかを読みとるなんて無理だろうな――と思ったのだ。
「なんだよ」
「いや、なんでもない。美以子に連絡してみるよ」

三人は高い窓が並ぶ前で会った。低いところにある太陽はすべてのものに長い影をあたえていた。三人の影も長く伸びていた。美以子は白いドレスを着ていて、ほんとうにお姫様のようだった。
「うれしい。二人とも来てくれて」
美以子はそう言っ Apartmentて頬を薄く染めた。周も強士もしばらく黙っていた。声がうまく出せそうになかったのだ。
「今日も泣きにきたんだ。いつもみたいのお願いするよ」
周はすこしかすれた声を出した。それを誤魔化すように笑ってみせた。
「わかった。頑張ってみる。今日こそ周くんを本気で泣かせるわ」
「で、強士からのお言葉は?」
「またこれをやるのかよ」
そう言いながら強士は一歩前に出た。美以子はじっとその顔を見つめていた。強士はさっと辺りを見渡した。自分と周、それに美以子。彼は自然と頬がゆるむのを感じた。二人の騎士とお姫様の物語、そのワンシーンのようだ――と考えていた。

「どうした?」
周がそう言ってきた。美以子は不思議そうに強士の笑顔を見ていた。強士はゆっくりと口をひらいた。
「美以子、大丈夫だ。俺も周も美以子がどれだけ頑張ってきたか知ってる。しばらく会ってなかったけど、それでも俺たちにはわかるんだ。だから、いつも通りにやればいいよ」
美以子は息を大きく吸って一度目をつむり、それからゆるゆると吐いた。肩の力が抜け、全身に血が巡っていくのを感じていた。
「ありがとう。二人にそう言われると頑張れる気がするわ」
周は強士の腕をつかんできた。
「前よりかは台詞が長くなったな。強士、お前もしばらく見ないうちにだいぶん成長したみたいだ」
強士は高い天井を見あげた。
「ありがとよ。周にそう言われるとこれからも頑張っていこうって思えるよ」