善行はひどく驚

この店の一等、眺めのいい場所に、この人形は置いてあります。

善行はそっと、その人形を手に取りました。

「思ったよりも、手こずったなぁ」

ため息のように口にすると、

「あの男の人、何者なの?」

いつの間にか、柱の陰に、肉屋のオバサンが、こちらをのぞき込んでいました。

ふいに声をかけられたので、善行はひどく驚いて、声も出ません・・

するとオバサンが、腰に手を当てると、

「なによ!オバケにでも会ったような顔をして!」

と、少し不満そうな顔をしました。

善行は、目を落ち着きなく泳がせて、

「いやいや、そんなことはない。

それにしても・・・オバチャン、いつも、元気だね」

フォローにもならない言葉を、あわてて口にしました。

オバサンは、ズンズンと善行に近付いて来ると、

「美人じゃなくて、悪かったわね」と、真正面に立つと、仁王立ちになり、

善行は、目のやり場に困ってしまいます・・・

「若くて、ぴちぴちのお嬢さんの方が、そりゃいいわよね」

軽く、善行をにらみました。

それから、ゆっくりと口元を横に引くと・・・

「で、あんたたち、何か企んでいるの?」

と、探るような目で、善行を見るので、いつの間にか部屋の外から、幸次郎が

近付いてきて、

「いやいや、とんでもない!」

鷹揚に手を広げて、オバサンに近付いて来ました。