世間は野良猫と呼

とある猫の話をします どこでも見れるただの雑種猫です
名無しでしたが いつか忘れたが ご主人様がマンマと呼び始めました
マンマは飼い猫ではない 出生年齢不詳の風来猫で 世間は野良猫と呼びます 
猫階層社会では自由奔放が重視され マンマは従順な飼い猫を軽蔑してます
マンマは暴風雨が荒れhifu 原理狂う夜 ビショビショの容姿で このあばら家に辿り着いた時
ご主人様は「シェシェ」と箒を翳し追ったが 部屋隅に蹲る痩せ猫を見つめて
首に巻くタオルを外して 抱えながら濡れた猫毛をそっと拭き 
ぎこちなく一言「大丈夫」と お椀のご飯に温かいみそ汁を注いでくれて 
汗沁み込んだ無骨な手のひらで 優しく毛並みを撫でてくれました
あの日からマンマはこのあばら家を ねぐらとする居候猫なのです
あばら家にはたくさん鼠がいますが マンマはバッタリと鼠に遭遇しても
避けるだけで興味も無いらしく 追い駆けもしない不可解な猫です
マンマはご主人様から あの夜に頂いた 一宿一飯の馳走で命びろいが出来たが
われは飼い猫と內痔治療方法は違うぞ ご主人様を煩わせずにわれ食う物は われでと
風来猫マンマの意固地です
お日様が昇ると田畑に向かい ひたすらに昆虫やカエルなど追い求めます
頑固なご主人様と猫魂マンマの 遠からず近からずの奇妙な距離感は
時間が消え失せた別世界の様な 不思議な空間を醸し出しています


長いトンネルを抜けて 仄かな春の息吹が聴こえたその朝
窓際の隙間から漏れ入る春光にあたり 寝そべる野良猫マンマ
眠気眼で両手両足いっぱい伸ばして 「ニャーン」と一声ご挨拶
パジャマ姿で登場のご主人様は お日様に両手翳して大欠伸
それを覗いたマンマも真似して 「ニャーニャーン」と背骨が波打つ
何となく気だるさ残る部屋で中一入學申請 掛け時計の針がピクラピクラと時を刻む
ゆっくりゆったりした朝の微睡を楽しむ様に 不思議なリズムを奏でる


頬を撫でる爽やかな東風が 芽吹き始めた里山を 駆け抜ける
春の日差しが惑わされたのか 土手で土筆(つくし)が騒がしい
ヨレヨレゴム長靴と ボロボロ麦わら帽子に 汚い軍手のユニホーム姿
鍬を肩にして ご主人様は 野辺の泥濘を ヨタヨタと歩いて行く
あらら 名残り雪ある楢林辺りに戯れているは 野良猫マンマじゃないか
今爛漫と花開いた梅林に 蜜の香りに誘われた あちらこちらのミツバチが
ブンブンと羽音賑やかに 入れ替わり立ち代わり お山の彼方へ消えて行く
さっき頬張った弁当のおにぎりが 効いてきたのか 目蓋重い昼下がり


冷たい夕風が川面を撫でる夕暮れ 土手で見え隠れする蕗の薹の蕾も萎む 
裏山の山端は茜色に染まり ちぎれ雲が西の峰から東の峰へと流れて消える  
どこか遠くからゴーンゴーンと囁く鐘音は ご苦労様と癒しの言の葉   
野良仕事を終えたご主人様も 冬眠から目覚めた蛙と格闘したマンマも
疲れ果てても軽やかな足取りで 灯りが点った茅葺のあばら家に戻る
ご主人様が浸かる五右衛門風呂の 小っちゃな窓には白い湯煙と鼻歌交じりの
はやり唄が満天の星空目指して彷徨います 
光も音も無くした漆黒の杉林から ホーホーと聴こえるのはフクロウの啼く声か
闇夜に木霊します ご主人様もマンマもスヤスヤとニタニタと何やら夢心地